自分の頭で浮かんだものが、約1か月という時間をかけ、たくさんの方の協力を経て、完成したときには鳥肌が止まりませんでした。プロデューサーやディレクターとの打ち合わせから始まり、平面図の作成、客席の確保や安全確認、デザイン提案や模型の作成、協力会社さんへの発注、設営の立ち合い、そして本番。こなさなければならない作業がデザイン以外にもたくさんあり、番組に携わった約1か月間は目の前のことでいっぱいいっぱいの日々でした。
セットをどのように組み立てるのか、何の素材で作るのか、悩むことばかりでしたが、その度に先輩方や協力会社の方々に解決策をいただきました。たくさんのスタッフさんと一つの番組を作りあげることができたという達成感は今までに味わったことのないものでした。
この番組に携わるまで様々な番組のセットを見てきましたが、あまり着目したことのなかった動線について考えるのが漫才番組の特徴であったと思います。
演者さんの年齢層が幅広いので、スムーズに舞台上まで行けるように階段などは設けませんでした。また、漫才ならではの「出囃子」と呼ばれるステージに出る際に演奏されるものがあり、その「出囃子」が流れる時間にあわせてストロークを考え、平面図を描きました。
デザイナーとして入社したからにはいつか“初めて”が訪れるのは当たり前のことかもしれません。しかし、入社1年目からセットを担当させていただけると思うと嬉しい気持ちが高まる半面、緊張と不安でいっぱいなのが正直なところでした。
テレビセットとは番組イメージにふさわしい、見栄えのする建物を建てるという認識でした。しかしその裏側には、実際にカメラに映る範囲を把握し、無駄なく、デザインすべきところに力を注ぐというスキルが必要であると学びました。
肉眼で見るのとカメラを通して見るのとでは立体感や奥行きの見え方が異なり、どのような素材・構造がより適しているのか試行錯誤しました。また、自分のデザインを大道具さんに伝えるところにも苦戦しました。伝える際に道具帳と呼ばれる説明書を作成するのですが、図や文を用いて端的に且つ、わかりやすく説明するのはとても難しかったです。
何となくテレビを見ようという時があります。そんな時、視聴者であったときは適当にチャンネルを変えてぱっと見で「おもしろそう」「楽しそう」といったイメージのものを選局していました。それを決める要素のひとつに演者さんがいて、ひとつにセットがあると思っています。視聴者であった時は色味やきれい・かわいいなどざっくりとした「雰囲気」で見ていたような気がします。それをつくることができるのがセットデザイナーです。
視聴者が「この番組を見よう!」という番組の第一印象をつくる一員になったこと。遠くに思っていた世界が身近に感じ、貴重な経験をさせていただいているということを改めて実感しました。